Day 5

今日こそは外に出ようと思っている。せっかく日本にいるのだから、そろそろロースカツ定食かカツカレーを食べなければ。そうしないと、バンクーバーに戻ったあとで「なぜ、あのときにロースカツを食べておかなかなったのだ」と思い出しては悔し泣きしてしまうからだ。ちなみに寿司とか鍋とか刺身とか、そういうのは少しも食べたくない。理由はぜんぜん分からない。

一時帰国してから5日目となった。しばらく日本に帰っていない在外邦人の方々のために、私が重要なことをお伝えしたいと思う。

・日本のテレビをつけると、考えられないぐらい膨大な数のタレントを見ることになる。ほとんどはあなたの知らない人だが、その5割は「お笑いグランプリ番組に出て人気になった芸人さん」で、2割は「少し変わったキャラクタが話題のアイドルかモデル」で、2割は「何かの宣伝のために出演している俳優」だ。残りの1割は、どうせ説明を聞いても意味が分からないので気にしなくて良い。

・CMの表現が露骨になっている。たとえば、そろそろ年末が近いので線香のCMが流れていたりするのだが、そこでは「喪中ハガキをもらったらお線香を送ろう」という、これ以上にないほど直球なレクチャーが示される。

・10年前と比較すると、テレビ番組におけるコーナーの切り替わりが格段に分かりづらくなったので気をつけよう。さっきまでテーマに沿って進行されてきたスタジオ収録の企画は、何の合図もなく唐突に放り出される。キャッチ画面もジングルもなく、時にはCMすら挟まず、いきなり無関係のタレント数人(さっきまでの企画とは一人も被ってない)が雑談しながら商店街を歩くシーンが流れ始めたりする。彼らは「じゃーん、ここでーす」などと言いながら飲食店の前で立ち止まり、まばらな拍手をして店に入り、料理が出てくるまで宣伝まじりのトークを展開し(ここで登場人物たちはワイプの中に入り、メインの画面では公開間際の映画が流れたりするのでますますややこしい)、やがて運ばれてきた料理を食べながら「おいしーい」とか言うのだが、ここまでスタジオとのやりとりは一切ない。そういった展開が説明もなく何度も繰り返されるため、画面の端に表示されている文字の情報には常に気を配らなければならない。それを怠ると、自分かテレビのどちらかが壊れた、としか思えなくなるからだ。

・その文字に気を配ったとしても、書かれているのは番組を熟知している人向けの情報なので、読んでも意味は分からない。「どうやらコーナーが切り替わったらしい」「番組名は変わっていない」ということだけ認識できればよい。

・「おいおい沢口靖子、まだリッツパーティ開いてんのか!」と一瞬だけ驚いてしまう。しかし、それは「ルヴァン」という名の製品なので、そんなにあわてる必要はない。

・そのルヴァンのカナッペを囓る女優たちの「味わい顔」が、とんでもなく嘘くさい。口に入れているのかどうかすら怪しい。特に沢口靖子、囓るときの音は流れるけど、どう見ても食べてない。

・トークバラエティ番組の切り貼りがすごい。芸能人を集めて話を聞く番組なのに、司会者以外のスタジオの顔ぶれがどんどん変化していくこともある。何も説明をしてくれないので、どこからどこまでが今回の放映分なのか、どこからどこまでが過去の映像なのか、どうして過去の映像を流すことになったのか、どんな意図で散らかしているのか、ひょっとしたら収録のつなぎに失敗しているだけなのか、いったい何が起きているのか何も分からないのでトークも耳に入らない。気がついたら完全に置いていかれる。「ナレーターのいない珍プレー好プレー番組のようなもの」という認識で見なければ15分で気が狂う。

・「日本すごい」系の自画自賛番組を避けても、意外とテレビを見続けることはできる。「●曜日の■時から▲時は全ての民放チャンネルで、外国人が日本人を褒めたたえている」というような時間帯は、たぶんない。

・宮根誠司は来年あたり、なんとなく逮捕されそうな気がする(根拠はない)。

・Twitterなどを見ていると「テレ東が攻めてる」「テレ東が斜め上」などの意見を目にする機会が多いのだが、むしろ最初から最後まで安心して視聴できる番組が多いと感じる。「日本のテレビをまともに見るのが10年ぶりだという人でも、主旨を理解したうえで見ることができるオーソドックスな構成の番組」はNHKとテレ東に集中している。少なくとも個人的には、そう思えてならない。

・おそらくテレ朝は、「そろそろ徹子が危ない」と踏んだうえで賭けに出ている。

・あからさまにお飾りの女性アシスタントがいろんな番組に出てきて、最初から最後まで面白いこともしないまま、ただ笑顔で「うわー」とか「すごいですねー」とか「それでは次にまいりましょう」とか言ってるような場面を何度も見てしまうため、最初のうちはテレビの前で首を吊りたくなる。しかし恐ろしいことに、もともとそういうものを見て育った人であれば、3日もたてば目が慣れてしまう。それが本当に恐ろしいので、特に女性は覚悟しておいたほうがしい。

・バラエティの3割ぐらいが、平成教育委員会みたいな番組になっている。芸能人だけを集めたクイズ番組の数が異常に多い。その質問の多くは雑学クイズではなく、また現在の世界情勢などに関連した常識クイズでもなく、ただの「学力テスト」なのだ。そんなものが面白くなるはずもないと思いきや、「お、この問題は伊集院光よりも早く答えられたぞ」などといった安っぽいカタルシスを手軽に得られてしまうため、麻薬的な効果があって非常に危ない。

・とにかく放送事故が少ないので、かえって不安になる。

・内村光良から利権の匂いがする(根拠はない)。

・たぶん安住紳一郎が、なにかとんでもない爆弾を隠している(根拠はない)。

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いまのうちに謝っておこう。ただ単に5日間、何時間もテレビを見ただけなので、詳しい事情は何も分かっていない。だから、もしかしたら少しぐらいは間違っている部分があるかもしれない。もしかしたら。