こんなところを読んでいる人もほとんどいないだろうと思うので、のびのびと3回目を書く。この話は、これで最後。
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いまの学校で、もうひとつ驚いたことがある。現在の自分のスコアが極めて分かりやすいのだ。これは、もしかするとカナダの学校では珍しくないことなのかもしれない。移民したばかりの頃、無料で通ったカナダの高校でも、教室には「現在のスコア」が張り出されていた(高校といっても普通の高校生に混じるのではなく、カナダで高卒の資格を取りたい大人の移民たちと、若い頃に高校でドロップアウトしたカナダの元高校生たちが一緒に勉強していた定時制高校のようなクラス。非常に面子が濃かった)。その掲示板には、生徒の名前ではなく「携帯電話の番号下4桁」が書かれていて、いま自分がクラスで何番目なのか、これまでに何点を稼いできたのかが分かるようになっていた。
いまの学校は、もっと凄いことになっている。学校のサイトにログインして、各カリキュラムのサイトで「自分のスコア」をクリックすると、これまでの成績がすべて表示される。小テストの点数、プロジェクトの点数、プレゼンテーションの点数、最終筆記試験の点数が「その日の夜に」反映される。さらに「それぞれの項目が、カリキュラム全体のスコアの何%を占めるのか」まで表示される。こんなものを見せられてしまうと、ひとつのカリキュラムを終えたときに自分の合計スコアがどうなるのかが気になってしまう。それはまるでシューティングゲームやシミュレーションゲームのステージクリア時に表示される画面のようなので、なるべく100点に近づけたくなってしまう。
さらにプレゼンの場合は「スコアの内訳」も分かる。まず前もってインストラクターが、採点基準表を学生へ配布する。決して大雑把な表ではない。それはちょうどフィギュアスケートの点数表のように、定められた時間内で何を盛りまなければならないのかが全て具体的に示されている。たとえば全28点のうち「冒頭における内容説明の分かりやすさ」の項目が3点を占めるとするなら、どういうものが3点満点なのか、どれぐらいできれば2点なのか、どんな感じだと1点になるのかが細かく書かれている。だから学生は最初から最後まで、できるだけ取りこぼしのないように満点を目指しながら発表することになる。発表のあとには、基準表に評価が書き加えられたものが手渡されるので、自分がどこで減点されたのかも一目で分かる。「どうして私のプレゼンは××点なのだろう」と悩む必要がない。ポワっとした部分が何もないまま合計点が示されているからだ。
こんな調子で全20のカリキュラムを終えたとき、自分のスコアが合計で何点になるのかを考えるだけでわくわくしてしまう。本当にシューティングゲームだ。最後の最後に表示される画面で、自分がいくつミスをしたのかを早く見たい。
私の記憶が正しければ、日本の大学では1年間の授業を終えたとき、成績表にアルファベットをひとつ貰っただけだったような気がする。いや、そっちのほうがいいのかもしれない。どっちがいいとは言わない。そもそもカレッジと大学は違う。大学は就職のために行く場所でなく、特定の学問を究めたい人がもっと学ぶために通う場所なのだから、成績なんてもの自体がいらないのかもしれない。ただ、いまの学校のような手法で成績を示されたら、私のような性格の人間にはテキメンに効いてしまうよ、やたら必死で学んでしまうよということだけを申し上げておきたかった。
おかげで最初の目標を完全に見失ってしまった。私は入学前、現場で働いている方々から「どこの学校を出ても、どんな成績でも全く関係ない。それぞれの現場によって仕事内容が違いすぎるから、学校で教わったことを役立てる暇なんかない。とにかくアホみたいな売り手市場の職種だ、ディプロマさえ貰えれば誰でも同じように就職できる。授業はクソつまんないけど、頑張って11ヵ月間だけ耐えろ」と聞かされていた。だから最初から「資格を買う」つもりで、ろくな下調べもせず入学したのに。いまでは「自分のスコアを見たい」というのが最大のモチベーションになってしまった。そのうえ授業がクソ面白いので困っている。