An Immigrant

移民について、短く書いておきたい。

私は英語が喋れないままカナダに移住した。こちらに来てから、公立の語学学校2つと、コミュニティカレッジ1つに通って、ひたすら移民用の無料クラスの授業を受けながら狂ったように勉強した。もはや何クラスあったのか数えることができないけれど、最初の2年半で終えたクラスは少なくとも20~30はあったと思う。

そこで移民たちを指導していたのは、素晴らしい教師ばかりだった。あえて言うなら2人だけ、あまり授業が面白くない教師もいたのだけれど、本当に教え上手の教師たちに恵まれたので、日本では幼稚園も大学も中退した私でさえ、なんとかすべてのクラスを無事に終えることができた。時には社会科見学として CBC(カナダ国営放送局)を訪問し、ニュース番組の制作現場を見たうえに土産をもらったり(このときの交通費4ドル20セントは学校側から支給された)、あるいは「就職体験」として興味のあるジャンルの職場へ単身で乗り込んでインタビューしたり(このときは学校のスタッフが私のためにバンクーバーの出版業界を調査し、カナダの出版を推進する非営利団体を紹介してくれた)といった課外活動もあった。また、一部の授業は「カナダの文学、政治、法律、医療、生活、自然、就職」などにテーマ分けした英語学習のプログラムで、すべてのカリキュラムを終えなければ普通は卒業できないようになっていた(その点、うっかり飛び級してしまう生徒は不運だとも言えた)。

私はそれらの授業を毎日、ほとんど無料で受けさせてもらった。何の特技もないまま、海外で離婚してひとりぼっちになった高卒の中年である私が、現在なんとか生活できるようになったのは、カナダ市民の皆さんが納めている税金のおかげだったと思う (また、しばらくは働かなくても死なないぐらいの慰謝料をくれた元夫のおかげでもある)。そして私は現在、自分の給与の25%以上を税金として納めている。たしかに日本と比べて税率は高い。でも高いとは感じない。これでようやく恩返しができるようになったのだと納得している。

しかし、私が受けた移民用クラスの一部は昨年から有料になった。たとえば私が最後に受けた1日6時間コースの大学準備クラスは、0円から一挙に15万円となったそうだ。それについては非常に残念だと思っているのだけれど、あいにく私には選挙権がないので何もできない。いっそ選挙権を得るために国籍を移そうかなあなどとも考えている。私が見るかぎり、カナダ在住の日本人の移民は、カナダの永住権を取るだけで、決して日本国籍を手放そうとしない。この国では、ガイジンであろうとカナダ人であろうと、基本的に同じ扱いを受けるからだ。カナダ国籍を取得することで得られるのは「選挙権」ぐらいで、他に何のメリットもない。一方、「日本国籍を手放すこと」は、日本に帰るかもしれない人にとって非常に大きなデメリットになる。しかし、おそらく私はこの先も、死ぬまでカナダで働いて、毎年25%以上の税金を払うのだろうから、その国の選挙権を得るのが当たり前なんじゃないのかなと感じ始めている。もう、こういうのは損得の話ではない。

そして日本の企業から振り込まれる原稿料が、最初から10%ずつ源泉徴収されていることについては、ものすごく腹が立っている。

※追記……以前どこかにも書いたけれど、学校通いを終えて働くだけの生活を始めてからというもの、私の語学力は、まるで穴の空いた風船のように萎みゆく一方となっているので、現在の私に多くを期待しないでいただきたい。