浪費

いろいろ言われてしまっているようなので、無駄かもしれないけれど書いておく。

 

  • hagex氏について

私は、hagex氏が正義の味方だったとは言ってない。個人的な感想を述べるなら、たいへん下品なウォッチャーだったと思っている。だからこそ私は、岡本氏と会話をしていてもhagex氏と会話をしている気がしなかったのだ。

hagex氏が英雄のように表現されるのは、故人だって少しも望んでないだろう。hagex氏の言動には、露悪的と言えるぐらいの俗っぽさと卑しさがあった。その点を私は否定しない。岡本氏と会話をするときだって、hagexの話題で最も使われる表現は「下世話」だった。それは本人が意図的に演出していた性質だと思う。

ただ、どれほど下世話であろうと、hagex氏の嘲笑の対象や戦いのスタンスには筋が通っていたと私は考えている。hagex氏は「ちょろそうな弱いやつ」を見つけ出して笑うのではなく、「不正を働いている人間」「威圧的なふるまいで他人を押さえつけている人間」「無差別に人を傷つけている人間」あたりを茶化して面白がる傾向があったのだと思っている。

その点を、わざわざ強調する必要はなかったのかもしれない。私もそう思う。せっかくの下世話な楽しみを削ぐような行動だったかもしれない。それについては申し訳なかったと思う。ただ、そこを完全に見落とされてしまうのは嫌だった。「陰湿な弱い者いじめを先導していた男が、虐められていた側に復讐された」と誤解されるのが嫌だった。

しかし、繰り返しになるけれど、私はhagex氏について語りたかったのではない。それは私ではなく、事情通のウォッチャーの方々にお任せしたい。私は決して、その界隈に明るい人間ではない。

 

  • 岡本氏について

こちらも前回の繰り返しになるけれど。私が誰かに聞いてほしくて仕方なかったのは、「私にとっての」「編集長としての」岡本氏のことだった。

人にはいろんな側面がある。他の人から見た岡本氏がどんな人だったのかを私は知らない。故人を美化しすぎているのではないかという意見もあって当然だろう。ただ私は「どうしようもない下っ端の一人が見た岡本編集長」について書いておきたかった。岡本氏に育てられたライターとして、それを我慢することはできなかった。

もちろん私は、岡本氏と組ませていただく前の現場でも、色々と鍛えられてきたのだろうと思う。他の仕事相手の方々に嫌味を言うつもりなんて少しもない。過去に私を使ってくださった方々には感謝している。それでも私は、自分が「岡本牧場でのびのびと育った運の良いライター」だったと思っている。なにしろ書いてて幸せだった。楽しかった。岡本氏は、私のように扱いづらい人間を放牧スタイルで管理するのが上手な人だった。「ハッカージャパンの頃を思えば、江添さんなんて少しも手のかからないライターです」と言ってくれたのをよく覚えている。

もしも岡本氏が「すっきりまとめる必要はありません」「とにかく好きなように書いてください」「構成は任せます」「どんな結末でも構いません」「僕が読みたいんだから他の人は気にしないでください」「なにも心配しなくて大丈夫です」「責任は僕が取ります」と何度も何度も言ってくれなかったら、決して書けなかった記事が私には何本もある。ロス・ウルブリヒトにせよ、ブライアン・クレブスにせよ、「どれだけ長くなっても、どんな結末になっても怒られはしないのだ」という安心感があったから、私は時間切れになるまで黙々と情報を掘り下げることができた。書くときだって脱輪の直前までブレーキを踏む必要がなかった。

なんべんでも言う。私にとって岡本さんは最高の編集長だった。

 

  • 真偽について

まるごと創作ではないかというようなコメントを見た。それに対して何を言っても無駄だろう。私には何もできない。

ただいくつかの事実を知っている方、岡本氏や私を知っている方が、「そういえば」と思い出してくださることがあれば充分だ。たとえば昨年、私個人に仕事を発注してくださった方が、「ああ、そういえばあの女、岡本さんを通してくれなきゃ仕事しないとかダダこねてたな。それぐらい信用される人だったんだな」と思い出してくれるようなことがあれば嬉しい。あとは一田和樹氏と私の共著の新書をたまたま読める環境の方がいるなら、私のあとがきを見てくれれば嬉しい。

 

  • きのう書けなかった「ヒルコ/妖怪ハンター」のつづき

「いや……私、そこまで褒めるつもりじゃなかったんですけど」
「なに弱気になってんですか、あんな面白い映画、滅多にありませんよ!」
「そんなにですか」
「僕にとって三本の指に入る傑作です、ヒルコは!」
「……」
「完全に言い過ぎですよ!」
「なんで怒ってんですか」