雷神教授とハチの物語を読んでくださった方々へ
とりわけ、私を許してくださった藤井風ファンの方々へ
前回のブログを読んで、コメントやDMをくださった方々に心から感謝いたします。ありがとうございました。あれはバンクーバーで孤独に暮らしている一人の日本人が、待ちに待った夏休み帰省の直前に、たまたまうっかり藤井風の「Hachiko」の公式動画を見たせいで頭がおかしくなってしまい、書きたくて書きたくてどうにもならなくなって書いたものです。
あの楽曲と映像が異様なぐらいに素晴らしすぎたおかげで、私の脳内には新しい宇宙が作り出されてしまいました。新しい宇宙といっても、それは「幼少期から現在に至るまで『ペット禁止』に打ちのめされてきた可哀相な中高年が妄想するイビツな世界」でしかなかったわけですが。とにかく私は、その世界に閉じ込められている雷神教授とハチを一秒でも早く外に出してやりたかったのです。その焦燥感に駆られたおかげで、貴重な一時帰国の七割ぐらいはHachikoのことを考える時間に当てられてしまったように思いますが、まったく後悔はしておりません。
正直に申し上げますと。あれを読み返したとき、自分でも面白いなあと思ってしまいました。刺さる人には思いっきり刺さりそうなものが書けてしまったという自負もございました。また「とつぜん魅力的なものに心を奪われた孤独な人間の奇行」としても興味深い例だと思いました。そのうえ天界マップが可愛すぎるわけです。だから自分以外の人にも読んでほしい、できれば楽しんでもらいたいという気持ちは明確にあったのですが。藤井風ファンの方々に見つかることを極端に恐れていた私は、書き上げたものをどうしたらいいのか分からなくなっておりました。
すなわち私が予想していたファンの反応というのは、
「藤井風のことを何も知らんババアが変な創作をしてる」とか、
「ファンでもねえくせに好き勝手なことを書いてやがる」とか、
「せっかくの素晴らしい名曲を汚すとはどういう了見だ」とか、
「てめえが妄想するのは勝手だけど人を不愉快にするな」とか、
そういった感じのものだったわけです。あるいはもっと簡潔に「気持ちわりい」「何してくれてんだ」「泣いて謝れ」「ふざけんな」「お前のせいで台無しだ」「死ね」「いますぐ消せ」ぐらいのことを言われるかもしれないと思っておりました。もしも私の書いたものがファンの方々に拡散されるなら、それは間違いなく「ここに不謹慎な馬鹿がいるぞ、絶対に許すな」という号令で生まれた流れであろうと。そのように想像していたわけです。だから拡散に気づいたときは「やっべえ見つかった」とビビりあがりました。
しかしおそるおそる反応を確認してみましたところ、怒るどころか褒めてくださる方、素敵な感想をくださる方、面白いコメントをくださる方、あるいは私を労ってくださる優しい方ばかりなので驚いてしまいました。いや、つうかさ。みんなあれ読んだの? ただの妄想だよ? あんなクドいのを? 最後まで? サイバーセキュリティの真面目な記事でも、あれだけ長くなったら最後まで読む人は滅多にいないと思うよ?
つまり「え、なんで叱られてないんだろう」というのが私の素直な感想だったわけですが。
おそらく、これは藤井風ファンの特性なのではないかと。私はそのように解釈することにいたしました。つまり新参者や余所者を短絡的に攻撃したり、ファン歴の長さや活動の濃さで相手を値踏みしながらマウントを取りあったり、気に入らないものを見つけ出しては集団で叩きに行ったり、特定のキーワードだけに反応して全体を見ないまま否定したり、簡単に怒りを煽ったり煽られたりするような人々ではなく。まずは相手をリスペクトできる方、私のような馬鹿でも一人の人間として尊重できる方、突飛すぎる内容でも真面目に読んでくださるような方が圧倒的に多いのでしょう。そうやって他者や作品と接することにより、人生を大らかに楽しむことができる、思慮ぶかく穏やかな方々なのでございましょうと。いまはそのように考えております。だからさ、もしも全人類が藤井風ファンだったら、いまごろ世界はこんなことになってなかったよね。少なくとも戦争は起きないよ。
念のために申し上げておきますが、さすがに私だって「藤井風の音楽を聴けば、だれしも穏やかで思慮ぶかく優しい人間になれるのだろう」とまでは考えておりません。おそらくは藤井氏の音楽や活動内容が「そういう良質なファン」を大量に惹きつけるのでございましょうなと、いまの私は勝手に、何にも分かっていない人間なりに想像することといたします。それとも藤井風って、本当にゼウさんみたいな人だったりするのかしら。だとしたらすごいよね。ますます他の曲を聴く勇気がなくなったぞ。でも実はもう三曲目に手を出しちゃったんだけどね。
ともあれ、あのような自己満足の投稿を楽しんでくださった方がいるなら、それは身に余る光栄でございます。たくさんのお言葉、本当に嬉しゅうございました。ありがとうございました。
聞くに早く、語るに遅く、怒るに遅く、それでいて幾分おかしなのものでも許容できてしまう、愛しい素敵な皆さまに幸多からんことを。
2025年7月23日 江添佳代子
おまけ
皆さまには本当に感謝しているので、何らかのプレゼントをしたいと思いました。というわけで、天界マップを描いてくださった中村犬蔵先生とのやりとりの一部をお見せします(いちおう了解は得てます)。

ものすごく可愛かった。本当に可愛かった。このまま何もしないほうがいい、だって可愛いんだもんと思った。


「ああ、なんか、電車の中で隣に座った老人が、ちょうどこんな感じでワケの分からないものを熱心に書いているのって何度か見たことがあるな。私もあの人たちと同じような感じになったんだな」としみじみ思った。だからみんな、公共の場でこういうことをしている人がいたら、私だと思って優しく見守ってあげてね。