新鮮だけど安い30個入りの卵を購入する。私は大量の卵を買ったときだけ、理想的な比率の卵液でフレンチトーストを焼くことができる。貧乏性なので、普段はどうしても卵をケチって牛乳を多めにしてしまうのだ。しかし20個も30個も卵を買ったときは、さすがに「今日はお祭りだからいいだろう」と開放的な気分になれるし、新鮮なうちに食べきらなければ申し訳ないという大義名分もあるので、どーんと卵を使える。
私が幼い頃、私の母は、何キロも離れている養鶏場に車で乗り付け、「けさ産まれたけどヒビが入っちゃって出荷できない投げ売り卵」を40個50個の単位で買っていた。この大量の傷入り卵は、当日のうちに、カスタードクリームがギッチリと詰まったシュークリームに生まれ変わる。母が「養鶏場に行くよ」と言ったら、それはシュークリームが食べられる(そして、家の中がシュークリームの素晴らしい芳香に満たされる)というサインだった。私が大量の卵によって貧乏性モードを解除できるのは、まだ釧路で暮らしていた頃の、あの幼少期の興奮が蘇るせいもあるのかもしれない。
ところで私は、「ハニーオレンジ」だの「シェルピンク」だのといった変な言葉で色を表現する習慣が大嫌いだ。名前をつけるだけで差別化を図ろうとする浅ましさに虫酸が走る。おそらくは明確な数値上の決まりもないまま、「これは、ただのオレンジではありません」「これは特別なピンクです」と主張しているのだろう。消費者をバカにしているとしか思えないので、たいへん気分が悪い。
それでも、パンケーキやフレンチトーストの、いい具合の焼き目の色を「ゴールデンブラウン」と表現する習慣については、なんとなく共感してしまう。それは要するに茶色だ。しかし憧れが詰まっている。きちんとお砂糖を入れたパンケーキやフレンチトーストが装う、あの光沢のある美しい茶色は、気分的に琥珀だ。宝石だ。あれはゴールデンだ。