Power Outages

先日、バンクーバー周辺では大規模な停電があった。幸いなことに、私の住んでいる家の周辺は何の影響も受けなかったのだけれど。私の友人や知人たちは全員、数時間~丸一日程度の停電(およびインターネットの切断)を経験していた。地域によっては電気の供給が40時間も止まったそうだ。バンクーバーにはガスを利用する家がほとんどないので、かなり大変だっただろうと思う。

ただ、それを報告する友人、知人たちの声が妙に明るい。あまりにも楽しそうなので、「うちは停電しなくてよかった」というより、むしろ「派手なイベントに自分だけ参加しそこねた」という気分にさせられている。なにしろ彼らは、こんなエピソードを自慢げに語るのだ。

「あの店も、あの店も、あの店も閉まっててさ、あの通りからあの通りまで信号も動いてなくて真っ暗で。でも、1ブロック離れたところは普通に明るいんだ。変な映画でも見てるみたいだった。特に困ることはなかったな。少し歩けば、営業してる喫茶店もあったし、店のWi-Fiも使えたし」

「うちの近所の店は、真っ暗だけどロウソクを点けて営業してた。POSが動いてなくて、店員さんが電卓を叩いてたよ」

「キッチンが使えなくて、なにも食べるものがないんだよなあと思ったら、同じアパートのお隣さんが訪ねてきて、『きのうの晩ご飯の残りなんだけど、食べきれないし、冷蔵庫も使えないから、よかったら食べて』って言われて。それがバターチキンカレーでさ。大好物だし、すげえ旨いし、なんか友達になった」

「冷凍庫に入ってたものが、みんな溶けちゃってさ。いつ電気が復旧するのかも分からないし、このままだと肉が腐っちゃうから、バーベキューセットを持ってる友人のところに駆け込んだんだ。そしたら同じこと考えてたやつがいっぱいいて、大規模な野外パーティになったんだよね。みんな食材を持ち込んでたから、すごく豪華だったよ。ビールはぬるかったけど」

「丸一日、インターネットを使わずに生活できた。こんなの何年ぶりだったか分からない。いざってときにバッテリー切れを起こしたら困るから、スマートフォンの電源も落としたんだ。それでも数分に一度、真っ黒な画面を見て、自分は依存症だなって分かった。すごく貴重な体験だったと思う」

「ロウソクつけたら、『クリスマスみたいだ』って子供がおおはしゃぎするんだよ。ゲームもできないし、テレビも見られないから、ただ家族全員で、ロウソクのあるリビングに集まってさ、『電気がなかった時代の人は、どうやって○○をしていたんだろう』なんてお喋りをしてさ。こういうイベントが定期的にあれば、教育にいいと思うんだよね」

つまり、少なくとも私の周りにいる人々は、誰も腹を立てていない。滅多に起こらない出来事に、みんな興奮してはいるものの、どういうわけだかネガティブなことを言わない(自分の準備不足を反省する友人はいたけれど)。いつ終わるのか分からない不便を楽しんだあとで、「また使えるようになってよかった」と喜んでいるのだ。

豊かな国というのは、こういうのを言うんだろうなと私は思っている。もちろんバンクーバー市民の全員が、こんなに穏やかなわけじゃないだろう。実際、「大きな損害が出た、賠償をしろ、訴えるぞ」って電気会社に噛みついている人もいるようだ。そういうのって恥ずかしくないのかなと個人的には思う。