My Friend’s Boyfriend 3

前回のつづき)

友人Sの彼氏(激エロ)に会った翌月のある日、友人Sと2人だけでお茶を飲むことになった。待ち合わせの場所に立っている私の姿に気づいたとたん、Sは遠くから両手をふって近づいてくる。いつものようにご機嫌だ。何度でも言おう。Sはおっさんなのに可愛い。

私たちは挨拶もそこそこに、駅前のコーヒーショップへ入った。そして席に座って荷物を下ろしたとたん、Sは誇らしげに尋ねてくるのだった。「私の彼氏、どうだった?」と。

「うん、本当に存在してたんだね」
「そうじゃなくて、実物を見て感想とかないの」
「あー、ものすごくハンサムだったねえ」
「でしょー!」
「なんかエロいよねえ」
「そうなのー!」

Sは本当に嬉しそうだ。しかし私には解せなかった。いつも朗らかで、優しくて、気配り上手で世話好きで、理由もなく浮かれていて、非常に大らかな性格の自由人であるSが、あのような彼氏で大丈夫なのかと。あんたたちは一体、どういう会話をするのだと。私は勝手に不思議がっていたのだ。

「いや……すごく素敵で立派な彼氏だと思うんだけど……ちょっと厳格そうな感じにも見えた。2人でいるときは優しいの?」
「それは訊かないでー!」
「やっぱり喧嘩になったりするの?」
「ぜんぜん喧嘩にはならない。私が朝から夜まで説教されてるだけだから。なにかとケチつけてくんのよ」
「それは……ええと……あんまり楽しそうに聞こえないんだけど」
「ムカつくよー。私よりずっと年下のくせに、ああしろこうしろってうるさいし。一緒に住む前は、ここまでひどくなかったんだけど、いまでは私も完全にベジタリアンにさせられちゃって。おかげでズボンゆるゆるだし」
「……たしかに、ちょっと痩せたよね」
「でも、性格に関しては目をつぶるぐらいの価値があるハンサムだと思わない?」

Sは、まっすぐに私を見つめて言う。どうだろうなあ、と返事する勇気はなかった。

「うん。ハンサムだ」
「こっちは50のおっさんよ? あんなに若くて可愛くてホットな男と付き合えるだけでも、すごい幸運でしょ、もう何だって許せちゃうでしょ?」
「そうか」
「だってあんなにエロいんだから! エロかったでしょ?」
「エロかった」
「ちゃんとお尻も見た? すごく格好いいのよ、お尻も!」
「それは気づかなかった」
「ケイは犬が好きなんだから分かるんじゃないの。可愛い犬なら、ぜんぜん言葉が通じなくても構わないでしょ? 自分の生活ペースを乱されても仕方ないなーって思えるでしょ?」
「犬レベルの話なのか」
「もう価値観が違いすぎて、なに言ってんのか分からないもん、犬と同じ! でも可愛いの!」
「うん。可愛いかった」
「あんたより若いのよ! それが家の中にいるの! 一緒に寝られるの!」
「知ってる」

ひたすら彼氏の若さと容姿に言及しようとするSは、マクドナルドで先輩の魅力を語る女子中学生のようにパーなのだった。一緒に暮らしている男を相手に、まだ恋わずらいをしている最中であるようにも見える。それはそれで微笑ましいと思う。そして私は、人の恋路に口を出すつもりなどない。ただ、ああいう極端な性格の彼氏が、何かの拍子で暴力に走ったりした場合、かなり怖いことになるのではないかと、勝手に心配したりもしているのだけれど。

しかし人の家のことは分からない。自分以外のカップルがどういうつきあい方をしているのか、どんなルールで共に生活をしているのか、ぜんぜん分からないし想像もできない。だからSとSの彼氏の間にも、私には予想もつかないようなひとときがあるのかもしれないのだ。たとえば、あんなに偉そうな態度の、マッチョな性格の綺麗な顔をした坊ちゃんが、夜は苛まれるのを待つだけの甘えん坊さんになってしまうだとか。おいおい、あんなに生意気そうな子が? そんなおねだりを?

「……すげえな」
「なに? 日本語?」
「いや、なんでもない」

言いたいことが何も言えないまま、いろいろと想像を巡らせたので、その日の私はなんだか異常に疲れてしまったのだった。でもコーヒーはSが驕ってくれたからよしとする。

(了)