The Same as Fiction

けっこうな年になるまで、いわゆる「縁談」というのは、普通の人間には起こらないことなのだと勝手に信じていた。たとえば小説や漫画の中で、「親がお見合いしろってうるさくて」みたいなシーンが出てくるたび、なんでそういう「いかにもドラマらしい、わざとらしい、お決まりの展開」に持っていくのかが理解できなかった。いくら非日常的なエピソードにしたいからといって、さっきまでごくごく平凡なキャラクタとして描いてきた登場人物に、後付けでプチお坊ちゃん/お嬢ちゃんみたいな設定を急ごしらえすることはないだろう、バカじゃないのかと思っていた。

「高校時代から一緒に遊んだり、一緒にバイトしたりしていた、いたって普通の友人が、いまは親戚や両親に勧められてお見合いしている」ということを知ったのは中年になってからだった。愕然とした。あれは「●●家の血を絶やさぬように」とか本気で言ってる人たちの世界だけに蔓延している慣習じゃなかったのか。だって普通、どう考えたって嫌だろ。「この人とつきあいなさいよ、結婚しなさいよ」なんて誰かから言われるのは、もう、それだけで即死できそうなぐらい不愉快だろ。これ以上、大きなお世話だって話はないぐらいに大きなお世話だろ。子供の頃から「うちはそういう家なんだ」ってあきらめてないと無理だろ。そのうえ、他人の目の前で本当に対面させられるなんてのは、ただの屈辱だろ。相手がサルであろうと宇宙飛行士であろうと同じだろ。そうでもないのか。そうでもないのだな。たぶん私が間違っているのだろうな。

自分の子供に、「勉強して良い大学に行きなさい」とか言うような親も、あれもフィクションの中だけに存在する人物ではなくて、世の中には本当にいる、しかも結構な割合で実在しているらしい、というのは10代の頃から知っていた。それも私にとっては衝撃的だったし、いまでも信じられない。そんなの一回でも言われたら、もう行かないだろ、大学なんか。たとえ本人が、特定の学問を続けることを熱望していたとしても、誰かにわざわざ「進学しなさい」なんて命じられたら、一瞬で情熱も失せるだろ。「残さずに食べなさい」とか、「ドアを静かに閉めなさい」とか、そういうのとはぜんぜん違うだろ。てめえの人生に口出しされたんだぞ。もう、その日のうちに荷物をまとめて家を出るしかないだろ。そうでもないのか。そうでもないんだろうな。たぶん私が間違っているのだろうな。うん。指摘してくれなくていいよ。