Filipino Food

バンクーバーの食材は、そこそこ手頃な価格で買えるうえに無税だ。だから自炊派の人間には嬉しい町なのだけれど、とにかく外食はアホみたいに高い。

2年前、ある情報誌のインタビュー記事の仕事で、こんな話を聞かされた。2012年の調査によれば、バンクーバーの会社員がランチの店で費やす平均価格は14ドル以上(チップを乗せると16ドル以上)となり、ニューヨークの会社員がランチに費やす平均価格を上回ったのだという。

「それは驚くべきことですね」などと相づちを打ちながら、私は信じていなかった。「いくらなんでも大げだろうよ」と思っていた。しかし、そこいらの店でハムとレタスとチーズの挟まったサンドイッチにカフェラテを追加すれば軽く10ドルを突破してしまうことを考えると、あながち嘘ではなかったのかもしれない。

そんな町でフリーランスのライターが日常的に外食をしていたら、あっという間に破産してしまうので、私は基本的に三食とも自炊している。たまーに外食をするときは、だいたいベトナム料理店だ。バンクーバーのレストランの相場を考えれば、この街のベトナム料理店は、たいへん安くて良心的な店が多い。日本よりコストパフォーマンスが優れている。さらに「おしゃれで高くて盛り付けの綺麗なベトナム料理店は、西洋人向けのボンヤリした味にアレンジされちまって残念なことになっているパターンが多い」「あかぬけなくて盛り付けが大雑把な家族経営の古びた店は、移民(あるいは難民)が来るから安くて旨い」といったバランスも、気取ったメシを嫌う人間にとって甘美すぎる。

というわけで、これまでの私は、「バンクーバーで何か食べるなら、まったく洗練されていない外観のベトナム料理店か、ごみごみしたエリアの香港系カフェ(※)に限りますぜ」と言ってきた。しかし最近は、ちょっと考えを改めている。もしかしたら、いまバンクーバーで最強なのはフィリピン料理かもしれない。(続く)

 

(※)香港系カフェ…その魅力について語り出すと大変なことになるので、稿を改めさせていただきたい。